私の知っている患者さんに九十二歳のご老人がいます。
事情あってのひとり暮らし。高齢だからという事で周りの人が骨を折り、老人ホームに入所されたのでしたが、二か月足らずで出て来てしまいました。
かくてまた、もとの一人暮らし。
「
優雅な独身生活を楽しんでいる。」と笑っていました。
月に二度きちんと高血圧の治療に来院されます。杖を片手にですが、足取りにみだれなく、補聴器をつけてですが、日常会話に支障なし。
毎朝決まって二合の飯を炊きます。一日分の主食として。
「一時七十キロあった体重を太りすぎなので、六十キロに落としました。
「ダイエットです。」「ご不自由ないですか。」という私の野暮な質問に、「いや、中々のものです。」と気負いもみえません。
知人に歯科医がいます。今年八十九歳になりました。
この夏、開業六十年の看板をおろしました。老妻、娘、孫たちが集まってささやかに打ち上げ式をやったという事です。
その胸の内、察して余りありますが、淡々と受け止められているように見えました。
そして現役のときと同じように楽しいことがあると声を出して笑っておいでです。
この秋アメリカ旅行を計画していると聞いています。持病は左足の神経痛だそうです。
また長年、半身不随だった夫を看病し、夫の最後を看取った後、一人暮らしになってしまった老婦人は、私の友人の母親です。
八十三歳になったという事ですが、赤い口紅がよく似合い、ピンクのマニキュアや、ちよっと厚めの耳たぶにつけているイヤリングが中々にいろっぽい・・・・。
軽い白内障と腰痛で時々医者通いをなさっているとか。
本件出身の歌人、土屋文明氏が「名誉県民」として顕彰されたということです。
この日本歌壇の最高峰といわれ、生活的、即物的な歌風でしられる氏は、本年九十六歳の齢、まだまだ現役でおられます。
戦後、ほとんどの歌人が敗戦の社会を悲歌に託したが、文明氏だけは、苦しみ、嘆きの中に新しい時代を、春の前触れを感じささやかな喜びの声を混えて歌を詠んだといわれています。
今老年人口(六十五歳以上)は、約千三百五十万人、その数だけのさまざまな年の重ね方があるわけですが、健康に長らえるためには、心の在り方も問われる様に思います。
おいてなほ
気取り手くるは われのみか
白髪頭にデニムのいで立ち。
土屋文明氏の最近の作であります。