ふじメディカル指導監督医Dr.駒井の、あったかい心温まるブログです。
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やさしさに出会う
病気
「やまだ○おさ〜ん」
呼ぶ看護婦の声で先に入って来たのは、紫色のスーツがよく似合う目のクリッとした色白の女性であった。
続いて濃紺の背広にその長身を包んだロイドメガネの紳士が静かな足取りで入ってきて、私の前の丸い椅子に腰を下ろした。
眉毛の濃いその紳士は顔つやもよく、一見患者さんには見えない。
カルテには、山田○夫、四十二歳とある。
短いあいさつの後、「妻です。」傍らの女性を紹介した。

私は、看護婦がそっと脇から差し出した、たった今、自現機から出てきたばかりの、つややかにひかっているレントゲンフィルムを一枚一枚、机の前のシャーカステンに挟んでいった。
傍らの夫婦の視線を方に感じながら・・・・。張りつめた空気が漂う中で、すべてが静かに型どおりに進んでいく。

私の眼は目はフィルムの隅から隅までせわしなく動き回った。
アイルランドの荒野で猟犬が獲物を探しまわってているかのように・・・・。


静けさの糸がきれた。
ある、あった。胃がんだ。
フィルムの名前とカルテの名前をもう一度確認した。
光っている黒いフィルムの向こうで、ロイドメガネの血色のいい顔が、みるみる内に、ぼちぼちとまばらな髭の頬のくぼんだ顔に・・・。目ばかりがギョロギョロしている。 
 そして身体にはふだん着のワンピースがまとわりつき、眼の下にクマのできた奥さんの顔・・・・。

シャーカステンから、このきちんとした身なりの中年夫婦に視線を移すのに、この一瞬の間に、私は誰にも分からない所で、
また一つの人生が崩れていく音を聞き、疲れた。

いともさりげなく、なごやかに、手術を要する旨を告げられたお二人は、深々とおじぎをされて出て行った。
戸口の所で、奥さんは、ためらうように立ち止まって私の顔を見つめていたが、
そのまま何も言わずにそっとドアを閉めて行かれた。

看護婦が次の患者を呼び入れるのを制して、
私は両膝にぐっと力を入れて立ち立ち上がった。
はた目には白衣を着た医者が静かに机を離れたに過ぎないのだが、私の中にはよろけそうになる自分があった。

私は、願いを込めて自分に言い聞かせた。
「いやいや手術はうまくいくに違いない。
薬は、予想以上の効果を上げるかもしれない・・・。」
机のわきの白い洗面器。
音もなく、私の手に絡みつき、そしてゆれる消毒液の中のガーゼ。
その横に積み上げられた医学雑誌の上に置かれているシクラメンの鉢

それは昨日のままだった。
二輪のフリージアのイラスト
 
| 15:30 | 診療室の窓から | comments(0) | trackbacks(0) |
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